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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

ならず、一条大宮裏向いの酒屋、土倉、小家、民屋はあまさず焼亡いたし、また村雲の橋の北と西とが悉皆焼け滅んだとのことでございます。

さりながらこれはほんの序の口でございました。住むに家なく、口に糊する糧もない難民は大路小路に溢れております。物とり強盗は日ましに繁くなって参ります。かてて加えて諸国より続々と上ってまいる東西両陣の足軽と申せば、昼は合戦、夜は押込みを習いとする輩ばかり、その荒々しい人相といい下賤な言葉つきと云い、目にし耳にするだに身の毛がよだつ思いでございました。そうなりますと最早や戦さなどと申すきれい事ではございません。昼日なかの大路を、大刀を振りかざし掛声も猛に、どこやらの邸から持ち出したものでございましょう、重たげな長櫃を四五人連れで舁いて渡る足軽の姿などは、一々目にとめている暇もなくなります。築地の崩れの陰などでは、抜身を片手に女どもをなぐさんでおります浅ましい有様が、ちょっと使に出ましても二つや三つは目につきます。夜は夜で近辺のお屋敷の戸蔀を蹴破る物音の、けたたましい叫びと入りまじって聞えて参ることも、室町あたりでさえ珍らしくはございません。