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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页
これは到底ちからで歯向っても甲斐はあるまい、この倉の中味を説き聴かせ、宥めて帰すほかはあるまいとわたくしは心づきまして、一手の者の背後に離れてお築山のほとりにおりました大将株とも見える髯男の傍へ歩み寄りますと、口を開く間もあらばこそ忽ちばらばらと駈け寄った数人の者に軽々と担ぎ上げられ、そのまま築山の谷へ投げ込まれたなり、気を失ってしまったのでございます。足が地を離れます瞬間に、何者かが顔をすり寄せたのでございましょう、むかつくような酒気が鼻をついたのを覚えているだけでございます。……
やがて夕暮の涼気にふと気がつきますと、はやあたりは薄暗くなっております。風は先刻よりは余程ないで来た様子ながら、まだひょうひょうと中空に鳴っております。倒れるときお庭石にでも打ちつけたものか、脳天がずきりずきりと痛んでおります。わたくしはその谷間をようよう這い上りますと、ああ今おもい出しても総身が粟だつことでございます。あの宏大もないお庭先一めんに、書籍冊巻の或いは引きちぎれ、或いは綴りをはなれた大小の白い紙片が、折りからの薄闇のなかに数しれず怪しげに立ち迷っているではございませんか。