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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

そこここに散乱したお文櫃の中から、白蛇のようにうねり出ている経巻の類いも見えます。それもやがて吹き巻く風にちぎられて、行方も知らず鼠色の中空へ立ち昇って参ります。寝殿のお焼跡のそこここにまだめらめらと炎の舌を上げているのは、そのあたりへ飛び散った書冊が新たな薪となったものでもございましょう。燃えながらに宙へ吹き上げられて、お築地の彼方へ舞ってゆく紙帖もございます。わたくしはもうそのまま身動きもできず、この世の人の心地もいたさず、その炎と白と鼠いろの妖しい地獄絵巻から、いつまでもじいっと瞳を放てずにいたのでございます。口おしいことながら今こうしてお話し申しても、口不調法のわたくしには、あの怖ろしさ、あの不気味さの万分の一もお伝えすることが出来ませぬ。あの有様は未だにこの眼の底に焼きついております。いいえ、一生涯この眼から消え失せる期のあろうことではございますまい。

ようやくに気をとり直してお文倉に入ってみますと、さしもうず高く積まれてありましたお文櫃は、いずくへ持ち去ったものやら、そこの隅かしこの隅に少しずつ小さな山を黒ずませているだけでございます。