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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

……ああ、あの文庫のことをお尋ねでございますか。あの夜ほどなく経蔵にも火はかかったのでございますが、幸い兵どもが早く引上げて行って呉れましたため、百余合のうち六十二合は無事に助け出すことが叶いました。それは只今当地の大乗院にお移ししてございます。先日もそのお目録のお手伝いを致したところでございますが、もとの七百余合のうち残りましたのは十の一にも満ちませぬとは申せ、前に申上げました玉葉、玉蘂をはじめ、お家累代の御記録としましては、後光明峰寺殿(一条家経)の愚暦五合、後芬陀利花院の玉英一合、成恩寺殿(同経嗣)の荒暦六合、そのほか江次第二合、延喜式、日本紀、文徳実録、寛平御記各一合、小右記六合などの恙なかったことは、不幸中の幸いとも申せるでございましょう。それに致しましても此度の兵乱にて、洛中洛外の諸家諸院の御文書御群書の類いの焼亡いたしましたことは、夥しいことでございましたろう。それを思いますと、あらためてまた桃花坊のあの口惜しい日のことも思いいでられ、この胸はただもう張りさけるばかりでございます。人伝てに聞及びました所では、昨年の暮ちかく上皇様には、太政官の図籍の類を諸寺に移させられました由でございますが、これも今では少々後の祭のような気もいたすことでございます。