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ゆきのやどり
雪の宿り
神西 清
「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页
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御承知のとおり、わたくしは幼少の頃より、十六の歳でお屋敷に上りますまで、東福寺の喝食を致しておりました。ちょうどその時分、やはり俗体のままのお稚児で、奥向きのお給仕を勤めておられた衆のなかに、松王丸という方がございました。わたくしより六つほどもお年下でございましたろうか、御利発なお人なつこい稚児様で、ついお懐きくださるままに、わたくしも及ばずながら色々とお世話を申上げたことでございました。これが思えば不思議な御縁のはじまりで、松王様とはつい昨年の八月に猛火のなかで遽しいお別れを致すまで、ものの十八年ほどの長い年月を、陰になり日向になり断えずお看とり申上げるような廻り合せになったのでございます。あの方のお声やお姿が、今なおこの眼の底に焼きついております。わたくしが今宵の物語をいたす気になりましたのも、余事はともあれ実を申せば、この松王様のおん身の上を、あなた様に聞いて頂きたいからなのでございます。
その頃は、先刻もお話の出ました雲章一慶さまも、お歳こそ七十ぢかいとは申せまだまだお壮んな頃で、かねがね五山の学衆の、或いは風流韻事にながれ或いは俗事政柄にはしって、学道をおろそかにする風のあるのを痛くお嘆き遊ばされて、日ごろ百丈清規を衆徒に御講釈になっておられました。