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ゆきのひ

雪の日

近松 秋江

「趣味」1910(明治43)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,365 字 · 17 页

青空文庫

と言って呼び留める。

私はギョッとして、こんな時、なまなか逃げたり走ったりするのはよくないと思ったから、じっと立ち止って、『何か御用ですか』って落着いて、そう言った。落着いているようでも、こっちはもう一生懸命で、足がブルブルして動悸がして、何を言ったか自分の声が分らない。……そりゃ私、幼い時分からちょっとしたことにも吃驚する性質でしたから。……一遍十六七の時分に、お勝手をしていたら、内庭の米俵の蔭に、大きな蛙がいるのを知らずに踏み蹴って、私その時くらい吃驚したことはなかった。『キャッ』と言って飛び上って、胸がドキドキしていつまでも止まない、私あんまり吃驚させられて悔しかったから、いじいじして大きな火箸を持って行って、遠くの方から火箸の尖で打ってやった。さんざんぱら打ったらようやくのことで俵の奥の方に、ノソノソ逃げて入った。そうすると、夜になってあんなにひどく蛙を打った。怨んで出やしないだろうか、火箸で焼傷をして困っていやしないだろうか、枕の所にあの何とも言えない色をした蛙が来ているようで、私蒲団を頭からすっぽり被って明朝は早く起きて、米搗きの男を頼んで、積み俵を取り除けてもらってみよう。