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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
「あんな輩にいうことなんかあるもんですか」
「なにも言わずに、だまって保護してくれじゃ、向うも弱ったろう」
「あたし言ってやったのよ。滋野が雪の晴れ間に強羅から下りてくれば、どこのカーヴでどうなって、どんなふうにして谷へ落ちこむか、はっきりと知っていた人間がいるって……そこまで言ってもわからないんだから、申しあげる言葉もないのよ」
「それだけでは、おれにもわからない。どういうことなんだ」
「仕事があるならともかく、いまはオフでしょう。あの怠け者が雪降りの朝の八時に車で降りてくるなんてしょっちゅうあることじゃないから、誰かに誘いだされたのだと思うべきでしょう」
「そうかも知れない」
「そうかも知れないでなくて、事実だったの。八時ちょっとすぎに、いつも連絡してくれる女の子から電話があって、滋野さん、いま車で出ましたから、間もなくそちらへ着くでしょう。お悪いような話でしたが、お元気な声を聞いて安心したわ、って……あたしは病気でもなし、滋野に電話なんか掛けたおぼえはないのよ」
「誰だろう」
「自動車の事故は霧の日か、道が凍ったときだけにかぎると思うのはまちがいで、天気のいい、陽の照りつけるときだって起りうるのよ……映画に関係したことのある人間ならすぐ気がつくことなんだけど、あなたにはわからないかも知れない……「羞明」