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ゆきま

雪間

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页

青空文庫

「笠原さん、伊沢です」

大柄のチェックのコートを着た笠原が尻下りの愛嬌のある八字眉をピクピクさせ、びっくりした子供のような眼つきで伊沢の顔を見かえした。

「伊沢さん……これはどうも」

「やられました」

笠原は両手で頭を抱えて、

「いやア、とんだ闇試合で……宮島だんまりの袈裟太郎があなただったとはおどろきました……なにしろ、この霧だから、あぶなくってしょうがない。御用邸の前へ車を置いてソロソロ歩いてくると、樹の下に人が立っている……わたしは臆病者で、怖いと、かあっとなると、年甲斐もないことをやりだすので困ります」

真面目になればなるほど剽軽に見えてくる。善良すぎる顔に愛想笑いをうかべてクドクドと言訳をしてから、

「なんだからって、なにもあんな手荒なことをしなくとも……いったい、どこをやったんだ」

と恐縮して立っている書生を叱りとばした。

さすがに照れくさいふうで、それとなく言いくるめてしまったが、正体もないようないまの暴れかたから推すと、たぶん憎い誰かと人ちがいしたというわけだったのだろう。その辺の機微は伊沢にも嚥みこめぬことはなかった。

「お騒がせして恐縮でした。