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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
紅葉も終って、この辺は雪が早く来るから、そろそろ東京へひきあげるほうがいいのですが、動くのはいやだというんだから……悪くなるなら、いっそのこと、もっと悪くなってくれれば、心配してやる甲斐もあるのですが、なにしろ一日中、寝室でぐったりしているだけだというんですから、張合もなにもありません」
そんなことをいっているところへ、小間使が入ってきた。
「うむ、なんだ」
「ぶしつけで恐れ入るのですが、ご用がおすみになったら、遊びにおいでくださるようにと、奥さまがおっしゃっていらっしゃいました」
笠原がうなずいてみせると、
「ただいま仕度をして居りますから、少々お待ち遊ばして」
茶会の待合でいうような挨拶をして、小間使が脇間から出て行った。
いつもこういう扱いを受けているのか、笠原はふしぎそうな顔もせず、楽しいことを待っている子供のような眼つきになって、
「あれの部屋は二階ですが、その階段をあがるのは、わたしも三月目ぐらいです」
と、わからないことをいいだした。
「今日、あなたがおいでくだすったことは、いろいろな意味でお礼を申さなくちゃならないんですよ。ここしばらく、自分から動きだすようなことは、ついぞ、なかったのですから」