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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

彼はさすがに、寒い所で育った者です。カケガネは只落ちさえすれば、良いのです。彼は雪の粘着力を利用する事に、気が付きました。雪は手近にあります。彼は大急ぎで書庫を出てカワヤの手洗いにある雪を取った跡が残る、危険があります。落し金を半開きの状態に置き雪をドアに打ち付けて、それにツバを支えらせました。その時まだ部屋の中は、ぬくもっていました。雪は一分間もするとドアの面から融けはじめ、やがて雪自身の重みで、下に落ち、カケガイがかかり落ちた雪は完全に消えて終いました。その『雪』と考えつけなかった所に寒さや雪になじみの尠い僕の暖国生れの悲しさがありました。若し雪が消えずにドアの下に落ちていたにしても、この樺太の冬です僅な雪は見すごされて終ったでしょう。

……とまでは、完全だったのですが、彼は一つのミスをして行きました。雪を掴んだ手を、綺麗に拭く暇はなかった。ぬれたままの手で、彼は外を伺いながら静かに後手に閉めました。その逆の第二指と、第三指のあとがノッブの裏側に、ついていたのです。

「早川は、稀代の本好きだったのです。外国ではビブリオマニアといっています。大槻文彦博士は『珍書顛家』