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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

伸びあがって前後の座席を見てみると、いくらもいない乗客が、申しあわせたようにおなじほうへ顔を向け、死んだようになって眠りこけている。それが、みょうにわびしい風景になっている。

白川は迫るような孤独の感じに耐えられなくなり、柚子の肩を揺って、

「すっかりだまりこんでしまったね。なにを見ている?」

柚子は、ゆっくりと白川のほうへ顔をむけながら、

「もう、十分も前から、こっち側のプロペラが動かなくなっている。それを見ていたの」

と、しみじみとした口調でいった。

なるほど、偏揺れは、そのせいだったのか。危険なことはあるまいが、そうならそうで、なんとか挨拶があるべきはずだと思っていると、操縦室からツルリとした優男が出てきた。踊るような足どりで白川の座席へやってくると、帽子をとって、

「白川さんですか、桜間です」

と丁寧にお辞儀をした。

桜間一郎なら、三年前のクリスマス・イヴに、香世子の車に乗ったばかりに、頭をどうとかして、死んだとか、バカになったとかいう噂だったが、奇抜なこともあるものだと思って、

「桜間君、君は死んだんじゃなかったのか」

と嫌味をいってやると、桜間は間伸びのした微笑をしながら、