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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

なんだか、あぶなっかしくて、それまで待っていられないような気がしてきたの」

「そうなったら、どんなにいいだろうと、おれも思うよ」

「望んでくだすっても、それはだめなの。柚子がなにもかもぶちまけてしまったから、隠さずにいいますが、あたしね、あなたといっしょに死ぬつもりだったのよ。お伺いしたとき、あまり機嫌がいいので、気の毒になって、やめてしまったけど、いまになって思うと、やはりあのときいっしょにお連れすればよかったと、悔んでいるんです。そうしていたら、調和のとれた、こんなにもおだやかな世界で、楽しく二人でやっていけたのにと思って……思いきって、こちらへいらしたら? そんなつまらないところに、未練なんかあるわけはないでしょう」

白川はタジタジになって、

「行けるものなら、すぐにも行きたいくらいだが、ちょっと、そこのところが、どうも」

と逃げだしにかかった。

香世子の霊は、怨みの滲みとおった陰気な口調で、

「こちらの世界のことを知らないから、そんなことをおっしゃるのよ。考えこんでいるようだけど、なにを、そんなに考えることがあるんです? 女のあたしがやったくらいのことを、あなたがやれないことはないでしょう」