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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

……

「おう、火事は何処だア」

「勢町だア。稲田屋に落雷して、油に火がついたからかなわない。ドンドン近所へ拡がってゆく……」

「そうか、油に火が入ったのだと思った。蒸気喞筒はどうした」

「油に水をかけたって、どうなるものかアと騒いでいらあ。……」

それから暫くたって、また別のニュースが町の隅々まで拡がっていった。

「稲田屋のお爺イとお婆アとが、焼け死んだとよオ。……」

「そうかい。やれまあ、気の毒に……。逃げられなかったんだろうか」

「逃げるもなにも、雷に撃たれたんだということだ。たとい生きていても、階下に置いてあった油に火がつけば、まるで生きながらの火葬みたいなものだ。どっちみち助からぬ生命だ」

北鳴四郎が云った言葉が箴をなして、稲田老人夫婦は、悲惨なる運命のもとに頓死をしてしまった。惨劇の二時間がすんで、午後六時ともなれば、人を馬鹿にしたように一天は青く晴れわたり頭上には桃色の夕焼雲が美しく輝きはじめた。

油店からの火災も、附近数百を焼いただけで、それ以上延焼することもなく幸いに鎮火した。調査の結果によると比野町での落雷は意外に少く、僅か七ヶ所を数えるだけで、多くは電柱に落ち、人家に落雷したのは彼の稲田屋一軒だったとは、町の人々の予想に反した。