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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

だから彼は間もなく町外れに出てしまった。

闇の中に水田は、白く光っていた。そしてそこら中から、仰々しい殿様蛙の鳴き声があがっていた。彼の紳士は、ホッと溜息を漏らすと、帽子を脱いだ。稲田の上を渡ってくる涼しい夜風が紳士の熱した額を快く冷した。

「……思ったとおりだ。……今に見て居れ」

紳士は、町の方をふりかえると、低い声で独り言を云った。

彼は、恐ろしい殺人計画を、自分だけの胸中に秘めて、この比野の町へ入りこんできたのだった。紳士と殺人計画! 一体彼は何者なのであろうか?

折から、同じ道を、向うの方からこっちへ近づいてくる人影があった。人数は二人、ピッタリと身体を寄せ合って、やってくる。なにかボソボソと囁きあっているが、話の意味はもちろん分らない。だがたいへん話に熱中していると見え、路傍に紳士が立っているのにも気づかぬらしく、通りすぎようとした。

「……モシ、ちょっと。……」

と紳士が暗闇から声をかけると、

「うわッ……」

というなり、二人の男は、その場に立ち竦んでしまった。そのときカランカランと音がして、長い竹竿が二人の足許に転がった。

「ちょっとお尋ねするが、この村に、大工さんで松屋松吉という人が住んでいたですが、御存知ありませんかナ」