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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

とたんに両手に抱えていた花束が、急にズッシリと重くなったのを感じた。

だが、その瞬間、お里の心は静かな湖水の水のように鎮まっていった。昔は昔、今は今である。今は夫英三に仕える心の外に、何物もない。何者にも恐れることはないのだ。恐らく四郎は、あの日、彼を裏切った自分や、露骨な妨害を試みた亡き両親などに復讐の念を抱いて、この町へ帰ってきたのだろう。しかしそれは今更、詮ないことだ。恨みといえば、恨みは彼女自身にあったかも知れない。なぜあのとき、四郎はもっと率直に、そしてもっと大胆に振舞ってはくれなかったのだろう。英三との縁談が降って湧いたとき、なぜ自分を唆かして、共にこの町から逃げようとはしなかったのだろう。お里に云わせると、四郎は温和な悧巧な美少年だったけれど、あまりにも心が弱かったし、女のように拗ねたがる男であったし、そして自らは知らぬらしいが見栄坊でもあった。彼は、そのために、決断力が足りなくて、そして自分で恋を捨てたようなものだった。彼は博士になるという話だが、人間放れのした博士には当然なれるかも知れない。しかし一人として血の通った女を手に入れることは出来ないであろうと思った。