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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

穴に入りたいくらいだ。お前さんをうちの二階に置いてあげてた頃は、自分の貸家も十軒ほどあって……」と、中年をすぎたこのうらぶれた棟梁は、手の甲で洟水をグッと抑えた。

「もういい、それよりも松さんに、ちと頼みたい事がある。お前さんばかりを頼ってきたのだ」

「おお、そうか。では、ゆっくり話を聞くとしよう」といって、俄かに傍の連れに心づき、その風体のよくない男を脇に呼ぶと、北鳴には憚るような低い声で、なにかボソボソ囁いた。対手の男はどうしたわけか不服そうであったが、やがて松吉が、やや声を荒らげ、

「ヤイ化助。これだけ云って分らなきゃ、どうなりと手前の勝手にしろ」

と肩を聳かせた。すると化助といわれた男は、ギロりと白い眼を剥いたまま、道の真中に転がっていた竹竿を拾いあげ、それを肩に担ぐと、もう一度松吉の方をジロリと睨んで、それからクルッと廻れ右をして、元来た道へトボトボと帰っていった。

「松さん。お前さんたち、今夜なにか用事があったんだろう」

「イヤなに、大した用事でもないんだ……」

そういった松吉は、気持が悪いほど、いやに朗かな面持をしていた。

2

翌日から、比野町では、大評判が立った。