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しもばしら
霜柱
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页
「ひきがえるもか」と云って石沢は笑った、「だだっ子みたようなことを云わないでもう少し辛抱しろ、いやでも辛抱しなくてはならない立場だが、いやいや辛抱するのではなんにもならない、このへんで肚をきめて、もし不当な小言だと思ったら繁野さんにはっきり云ってみろ、自分の責任でないと思ったらそれもはっきりさせるんだ、不平や不服なことは胸にしまっておかず、じかに繁野さんにぶっつかってみるんだ、そのくらいの度胸がないことはないだろう」
おかやは酒を持って来た。喜兵衛はまだ憤懣がおさまらないらしく、肴をつつき酒を飲みながら、なおぶつぶつ文句を云い続けたが、石沢はもう相手にならず、半刻ほどすると先に独りで帰っていった。石沢には正之助という六歳の子供がいて、夕餉は必ずいっしょに喰べる約束だし、それをやぶると罰をくう、ということであった。
「諄いようだがやってみろ」と石沢は帰るときに云った、「眺めているだけでは笛の音もわからないからな」
喜兵衛は返辞をしなかった。
「辛抱しろか、へ」と石沢が去ったあとで喜兵衛は云った、「江戸にいたころはもっときりっとしていたのに、僅か七年でいやにおさまっちまやあがった、へ、田舎者め」