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しもばしら

霜柱

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页

青空文庫

石沢を送って戻ったおかやが、それを聞きつけて咎めた。

「そんなことを仰しゃるものじゃありません、そんなわる口を云うなんてあなたはいけない方よ」

「おいおい、おまえまでが意見をするのか」

「石沢さまの仰しゃったことは本当なんです」とおかやは彼に酌をしてから云った、「繁野さまはあなたをわが子のように思っているっていうこと、あれは石沢さまの当て推量ではなく、本当のことだと思うんです」

「でたらめなことを云うな」

「聞いてから仰しゃいまし」とおかやは云った、「あたし十三から十七の年まで、繁野さまのお屋敷へ奉公にあがっていたんです」

喜兵衛は口まで持っていった盃を止め、そのままでおかやの顔を見まもった。

「そのころお屋敷には、義十郎といって、繁野さまの一人息子がいました」とおかやは続けた、「あたしより五つ年上で、男ぶりのいい神経質な方でしたが、十六七のころから酒の味を覚え、まもなく悪いなかまができて、女あそびや博奕まで手を出すようになったんです」

「ちょっと待て、繁野には子がいないと聞いたぞ」

「ええ、みなさんそう仰しゃいますわ、繁野さまに遠慮して、そんな方がいたことは口にする人もないでしょう」