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しもばしら
霜柱
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页
――こまった、酔い潰れたな。
そう思って頭をあげると、枕許に暗くした行燈があり、自分は寝衣になって、ちゃんと夜具の中に寝ていた。慥かに石沢と話しているつもりだったが、いつか帰って寝たものらしい。話し終ってから帰ったのか、それとも酔ったので話し終らずに帰り、夢の中で話し続けたものか、まだはっきりしない頭ではどちらとも区別がつかなかった。
「そんなに酔ったのかな」彼は腹這いになって水を飲もうとした、「だらしのないやつだ」
そして急に口をつぐんだ。
勝手のほうで人声がし、誰かどたばた暴れる音と、「義十郎だ」と喚くのが聞えた。夢の中で石沢が云ったように思ったのは、じつは勝手で喚いたその声だったのだろう。喜兵衛はあらあらしい物音とその喚き声とで、はっきり眼がさめると同時に、なにごとが起こったかを悟り、すぐに立ちあがって着替えをした。
勝手では家僕の仁兵衛が、一人の男と揉みあっていた。脇に置いてある手燭の光で、喜兵衛はまず男のようすを見た。年は三十二三、痩せた貧相な顔に髭が伸び、月代も伸びていた。揉みあっているうちに着崩れたものか、縞目もわからないような古布子の前がはだけ、平べったい胸や、晒し木綿を巻いた腹があらわになっていた。