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しもばしら
霜柱
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页
と云って男は大きく息を吐いた、「腹の焼けるときにゃあ冷に限るってな、躯の隅ずみまでしみとおるぜ」
憎みや怒りの中だけでは生きられない、と喜兵衛は心の中で思った。時が経つうちには、どんなに深い憎悪も怒りも、やわらげられ、いやされてゆく、時岡八郎兵衛が現にその事実をみせてくれた。
――繁野さんもそうではないだろうか。
六十歳近くなって養子も取らないのは、いつかわが子が帰って来る、性根が直り、侍らしい人間になって帰るだろう、そう思って待っているのではないか。勘当したときの怒りや憎みはすでにやわらいで、ただわが子の帰るのを待っているのではないだろうか、そう考えて八郎兵衛の話をしたのだが、そうだとすると待ち甲斐がなかった。これでは帰って来ないほうがよかった、と喜兵衛は思った。
「おれがこんな人間になったのは、おれのせえじゃあねえ、わかるか」と男は饒舌っていた、「おい、聞いているのかよ」
男はさっきから饒舌っていたのだ。
「聞いている」と喜兵衛は答えた。
「人間はな、氏より育ちっていう」男は手の甲で口を横撫でにした、「親の育てかたしだいでよくもなれば悪くもなるんだ、そうだろう、おれの親はなっちゃなかった、てめえたちには一粒だねだから、可愛くって大事な子だったろう、まるで飴ん棒のように甘く、我儘のし放題に育てた、小言を云う