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しもばしら

霜柱

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页

青空文庫

「話はわかるらしいな」男は汚ない歯を見せて嘲笑した、「おれさまと同様、江戸では道楽者でとおったそうだから、やぼな人間じゃあねえと思った、おめえのことはすっかり吟味済みだからな、へたに恰好をつけようったってむだなこったぜ」

「用はなんだ」と喜兵衛が訊いた。

「せくなよ、いま酒が来るんだろう」男はぼりぼり頭を掻いた、「もう一つ断わっておくが、おめえおれのめえで大きな面あしちゃあいけねえぜ、おめえはおれの屋敷を取り、おれの許婚者まで横取りしたんだ、許婚者のほうはまだこれからだろうが、噂によると祝言の日取まできまってるらしいからな、大きな面あしちゃあいけねえ、さもねえと高いものにつくぜ」

家僕が酒徳利と盆を持って来た。盆の上にはなにかの佃煮と漬物の皿、それに椀の蓋くらいある盃がのせてあり、喜兵衛が頷くのを見てから、家僕は去っていった。

「おめえやらねえのかい」男はすぐに盃を取り、徳利を持ってみながら云った、「おれのような人間と飲むのはいやか」

「今夜は少しやり過ぎたんだ、いいから独りで飲んでくれ」

「大きなことを云うない、五合徳利に七分目もありゃあしねえぜ」男は盃を置き、徳利の口からじかに飲んだ、喉の骨が上下に動き、喉でごくごくと音がした、「悪かあねえ」