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きりのなか

霧の中

豊島 与志雄

――「正夫の世界」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页

青空文庫

」

「何にもしてやしないよ。」

「じゃあ、退屈だろう。」

「退屈だから、何にもしていないんだよ。」

「何にもしないから、退屈するんだ。」

「ちがうよ。退屈だから何にもしないのさ。」

「同じじゃないか。」

「ちがうよ。」

チビは耳をかいた。困った時の癖だ。そして暫く黙っていたが、正夫の目の中を覗きこんできた。

「じゃあ、何を考えていたんだい。」

「いろんなことだよ。」

「どんなこと?」

「神だの、巨人だの、人魚だの……。」

「ああ、大昔の話か。あんなこと、みんな嘘っぱちだろう。」

「嘘じゃないよ。」

「本当のことだと思ってるのか。」

「本当でもないさ。」

「そんなら嘘じゃないか。」

「本当でも嘘でも、どっちでもないんだ。」

「では何だい。」

「何だか知らないが、本当でも嘘でも、どっちでもないようなものが、あるんだよ。君には分らないだけだ。」

チビはまた耳をかいた。

「今だってあるよ。」

「何が?」

「そんなことが。こないだも……。」

すぐ向うの丘の、裾を廻ってる街道でのことだった。夕方近くで、うすく靄がたれこめてる中に、まだ明るみが浮き上ってる、へんに佗びしい頃だった。白い街道を、一台のトラックが走って来た。