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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

四

四

「此辺でよかろう」

日本橋のとある横町に、自動車を停めた花房一郎、暫らく車の中に止ったまま、腕を組んで、ジッと思いを凝らしました。

往来の人も殆んど絶えて、僅に終電車の音が遠く唸るばかり、夜と共に起った空っ風が、巷の埃を濛々と吹き起して、車の外は面を向けられそうもありません。

「何時だろう」

わざと電灯を消した自動車の中から声をかけると、

「一時過ぎましたろうな」

運転手は気の無い声で返事をします。

「ハテナ」

花房一郎は思わず声を出して首を傾けました。

(先刻の電話が騙りで、自分をおびき寄せる為の手段ならば、時間と場所を明瞭に指定する筈だ。危害を加えるにしても、翻弄するにしても、場所と時間を指定せずにおびき出すという法はない、して見ると、あれは矢張り大谷千尋の悪事を嗅ぎ知った者が、自分へ密告してくれた電話であったろうか、青い眼鏡と言うことを知って居る以上は、今晩あの食堂の中に居た者に相違ないが、あの一座の女と言うのは美容術師の村岡柳子と、女優の芳野絢子の二人っ切りだ。が電話の声は、この二人の内の一人で無かった事は確かだ、――)

此処まで考えると、花房一郎の頭脳も混乱するばかり、この先どうしていいか見当も付かなくなります。