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あおだけ

青竹

山本 周五郎

「ますらお」大陸講談社、1942(昭和17)年9月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 14,622 字 · 29 页

青空文庫

「せっかくではございますが、わたくしは生涯つまは娶りません」そう云いながら、源七郎の眉はいかにも苦しげに曇ってきた、兵庫はそれを訝しそうに見まもっていたが、「生涯めとらんで家の血すじをどうする」「家のためには、すでに養子をきめてございます、ご好志にはそむきまするが、縁談のことばかりはご無用にねがいます」「なぜだ、その仔細をきこう」たたみかける兵庫の言葉に、源七郎はしばらく、じっと眼を伏せていた。ずいぶんながいあいだそうしていたが、やがて、低くむせぶような声で云いだした。

「いまより十四年まえ、わたくしはおのれの増上慢から、またとなき縁談をおことわり申しました、うえより娶っては、女房のゆかりで出世したと云われるなどと、未練きわまる心得にて……まことにまたなき縁談をことわりました、あとで悔みましたが及びませんでした、そのうえ、たぐい稀な美しいそのひとは、間もなく病んで亡くなったのでございます」兵庫はつよく胸をうたれた、――ああそれを知っていたのかと思い、心をしめつけられるように感じた。源七郎が直孝について江戸へ去ったあと、二年ほどして娘ははかなく病死した、清浄なままで仏になったむすめの死顔は、いま思いかえしても気高く美しいものであった。