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ひじょうのあい

非情の愛

豊島 与志雄

「中央公論」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页

青空文庫

だがここで、実はいろいろなことが行われたのである。――その一例として、この物語に関係のあることを述べれば、片隅の卓子の上の瓶に、数匹の蛭が泳いでいた。建物の反対側、つまり表側に、刳貫細工物問屋の一家が住んでいて、そこの肥満した主婦が、肩の欝血の凝りをなおすために、昔風な蛭療治をしていた、その蛭の幾匹かを貰ってきたのである。

この下等な吸血虫は、甚だ根強い生命力を持っていて、飢餓状態に放置されれば、その体積が十分の一ほどにまで萎縮するが、それでもまだ生きている。そのため、いろいろな実験に使われる。――そういうことが話題になった時、秦啓源は更に変なことを言い出した。――蛭を太陽の光りにあてて乾しておけば、すっかり乾燥して、鉛筆の芯みたいになる。鉛筆の芯と同じく、ぽきりと折れるようになる。そいつを、水につけておくと、自然と元に戻って、また、ひらひらと水に泳ぐ。折れたのはだめだが、折れさえしなければ生き返る。

それはちと信じ難いことだった。盆石の苔などは、すっかり乾燥させ、布にくるみ、箱に納め、数年間放置した後、取り出して水をやれば、一夜にしてまた青々と蘇るけれども、鉛筆の芯になった蛭などは……。