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ひじょうのあい

非情の愛

豊島 与志雄

「中央公論」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,831 字 · 24 页

青空文庫

」

「それは残る。」

「それをどうするんだ。」

「非情で対抗する。」

「非情は信念であり理想であることは分るが、然し、それは僕たちの間だけのことで、一般にはなかなか通用しない。僕自身にしても、非情に徹しられないことがあるからね。」

「それは、僕にもある。」

そして彼等は、ふしぎにも、悲しそうでなく、却って気楽そうに、顔を見合って微笑した。然しそれは、私の理解する限りでは、彼等が不真面目だったというわけではなく、互いの深い信頼から来たものだったらしい。

波多野は微笑をやめて言った。

「それで……大丈夫かね。」

「あのことか、心配いらない。少しは経験もある。然し、酒はもうやめよう。酔っていては都合がわるかろう。」

そして彼等は、薄暗い狭い階段をのぼって、二階の室におちつき、そこで、簡単な夕食をすませて、碁など打ちはじめた。

ところで、この二階は、六畳と長四畳との二間続きになっていたのが、階下の酒場とは別種のもので、その建物全部の所有主となってる波多野洋介の、謂わば私室だった。まだごく簡素な調度品が備えてあるきりで、どうにか書斎とも応接室ともつかない恰好だけを持っていた。