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おんぱのさつじん
音波の殺人
野村 胡堂
「新青年」1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,399 字 · 30 页
ピアノの鏡板に映った顔
「此窓が、長島博士の研究室から見えるか何うかだ、若し博士がその時刻に窓から首でも出して居れば――これはまア、万一の僥倖だが犯人の頭位は見えた筈だ、――行って見ようか、勇」
「何処へ?」
「長島博士の研究室へだ、――夫人が死んでも、此処へ来ようともしない博士の胸には、癒すことの出来ない大きな怒りと悲しみがある、行って慰めて上げても宜い」
千種十次郎と早坂勇は、其処から一二丁先、小高い丘の上にある博士の研究室に向いました。
小春日の妙に温かい日です。
ピアノの鏡板に映った顔
「御研究中で、御誰にもお目に掛りませんが」
婆やの言うのを押し返して、
「奥さんを殺した犯人が捕まりました、それを申上げに参ったんだと伝えて下さい」
千種のこの駈引は見事に成功して、間もなく二人は、前の晩の研究室に通されました。
まだ昼で明るい電灯はありませんが、不気味に振動する巨大な機械の傍に、小卓を前にして、何やら考えている博士の顔は深沈として居ります。
「又来たのか」
四十五六というところが精々でしょうか、鏤骨の労苦と研究に痛められて、五十より若くは見えません。静かに斯う挙げた顔には、言いようも無く淋しい悲しみが冬の水に映った雪雲のように淀んでいるのでした。