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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
二
清三は康子の顔を見た、康子は黙って魚に箸を運んでいた、それから飯が終って茶になったとき、ふいと康子が青木に云った。
「龍さん、あなた私たちの結婚が、幸福か幸福でないか分かりますか」
青木はびくっとしたようだった。清三も少なからず不意を打たれた。康子は静かに笑った。
二
雑誌の為事は月の半頃になると煩わしいほど忙しかった。天王寺にある印刷所まで校正に行って、そこで十時まで朱筆を持たなくてはならない日がすくなくとも四五日は続いた。汽車がなくなって、阪神の終電車に辛うじて間に合うようなことも再三あった。
為事するあいだは熱のあるように妙に怠い躯が乗物で須磨へ近づくと次第に元気を恢復するようだった、朱筆を持って努めて睡気と戦っていた眼が、家の門を入るとはっきり醒める気がした。
その日は朝から独特の暗い冷たい雨が降っていた、前日に印刷所で職工が休んだので、二日分の原稿が校正机の上に重ねてあった、何だか朝家を出るときから少し熱があるようだったのが、時間とともにだんだんひどくなって、ちょうど夕方、再校の出る時分から後頭部が刺されるように痛み始めてきた。清三は耐らなくなって為事を同輩に頼んで印刷所を出た。