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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
「我慢なさい」
程経て康子がそう呟いた、そして清三の手を蒲団の下に入れて、立って階下へ去った。清三は干き切った唇を噛みながら、「我慢なさい、我慢なさい」と口の内で呟いた。
明る朝清三は十三弦の音の中で眼を覚した、なにかなしに微笑まれた。そして長いあいだその琴の音の中に身を溺れさせた。
青木が上って来て、具合はどうだいと云った、これから社へ行くが、喰べたいものがあるなら買って来てやるぞと云った。清三は微笑しながら心からありがとうと答えた。
「おい、ちょっと」
去ろうとする青木を清三は呼び止めた。
「琴はあの人か」
「うん、うるさいだろう」
青木は悪戯らしく笑った。
「頭がすっとする、階下へ行ったら、いつまでも続けてくれるように云ってくれ」
「暢気だなあ」
青木は元気に去った、するとすぐ琴の音が止んだ。そして間もなく康子が来た。
「眠れましたか」
康子はそう云いながら含嗽茶碗を枕元に置く、清三は康子の顔を正面に見ることができなかった。
「電報が来たのを知ってらっしゃる?」
「ええ知っています」
「そう」
清三は黙って康子の言葉を待っている、が康子はそれきり何も云わなかった。