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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
清三の胸がびしりと鳴るようだった、青木は手を伸ばして長火鉢の抽出から、電報紙を取出して清三の前に置いた。清三は何か宣告されるような気持でそれを取上げた。電報は二枚で、一枚が暗号ので片方が会社で翻訳してよこしたものだった、それには、正月に帰るという意味が記されてあった。
水枕を造ってもらって、清三はすぐ寝た、けれど頭の痛むのと電報とがいつまでも眼を閉じさせなかった。躯中が悩ましかった。康子がますます恋しくなった。逢うことが許されなくなった恋人たちのように狂おしく恋しかった。清三は枕の白い帛を噛んだ、泪が熱く頬を伝って落ちた。
清三は何かに驚いて眼を覚した。とちょうど仰臥した彼の鼻の先に康子の顔が近づいているところだった、康子の表情はやや狼狽を見せたが清三はそんなことを見分けている余裕がなかった、康子が顔を引くのとほとんど同時に、清三の手が本能的に康子の膝へ伸びていった、康子はその手をしっかりと握った――清三は全身がわくわくと波打つのを覚えた。二人はしばらく黙って手を握り合ったままでいた、康子は眼を閉じ、清三は枕に顔を押伏せていた、二十三年の月日が清三の目前で炎のように回転していた。