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すまでらふきん

須磨寺附近

山本 周五郎

「文藝春秋」1926(大正15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页

青空文庫

康子は白いものを刷いた頬をちょっと押えながら笑った。清三はそうした場所にあってことに美しい女の姿を見た。

「次の幕が開いたら、二階の食堂に行っててちょうだい」

それだけ云うと康子は清三から離れた。

電鈴が鳴ると、廊下の人波は皆扉の中に流れ入ってしまった、清三は命ぜられたままにした、食堂には客の姿は見えなかった。

康子の来るまでに清三は二杯の牛乳を空けた、時間にしたら二十分たっぷりであろう、いらだたしい眼が、何度か壁のクリムトの複製画に止まった。平常は大好きであるこの画家が、そのときはこの上もなく平凡に倦怠に見えた。

「失礼、赦してね」

康子は清三と向合って坐りながら云った。清三のいらいらした気持はすぐ烟のように消えていくのを覚えた。数皿の軽い料理が運ばれて、康子が清三に喰べろと云った、清三は葡萄酒で煮たという仔牛の肉を平げた。

「すぐ帰る? それとも観ていらっしゃる?」

清三は思いがけない気持で康子の言葉を聞いた、すくなくとももう少し情に訴えるものを期待していたのである。

「帰ります」

「観ていらっしゃい、一緒に帰りましょう」

康子は清三の気持を感じたらしかった。