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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
「労れたでしょう」
康子はそう云う、清三はやはり感謝の微笑でそれに答えた、そして自分に注がれる鋭い情熱的な冷たい瞳をわくわくしながら味っていた、神戸の新聞社に出ている青木は毎日午近くに出て帰るのは夜晩くなった。清三は二人きりの時間を、毎日何か事件でも起こるような気持で過ごした。
雨の降る日、例より早く帰って来た清三と茶を飲んでから康子はその辺を歩こうではないかと云い出した。清三はすぐ同じた。二人は家を閉めて雨の細い夕暮の中に歩き出した。
「よい処へ連れてってあげます」
上目使いにちらと悪戯らしく清三の額を見ながら媚びたような笑を唇に見せて康子が云った、清三は康子の、娘のように豊かな胸元を見た、康子はきれるほどきゅっと帯を締めていた。
康子はときどき何か話しかけた、清三も言葉尠なくそれに答えた、何を話し何を答えたかはすぐ忘れてしまったが、五つも年の上である彼女が、常に姉のような態度で迫ってきたことだけは覚えている。もちろん清三の態度にはいくらか弟としての甘えたさがあったに相違ない。
清三は大きな池のある広場へ連れて来られた、ここが須磨寺だと康子が云った。