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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

08 氷献上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,674 字 · 36 页

青空文庫

小伝馬町の牢屋敷。

三千五百坪の地内に揚座敷、揚屋、大牢、二間半(無宿牢)、百姓牢、女牢、と棟をわける。

お目見以上、五百石以下の未決囚は揚座敷へ。お目見以下、御家人、僧侶、山伏、医者、浪人者は、ひと格さがった揚屋へ入れられる。

揚座敷のほうは、いわゆる独房で、縁付畳を敷き、日光膳、椀、給仕盆などが備えつけてあり、ほかに、湯殿と雪隠がついている。

揚屋のほうは、大牢や無宿牢のような雑居房ではなく、これも独房だが格式はぐっとさがって畳は坊主畳になり、揚座敷のように食事に給仕人がつかないから、したがって給仕盆などの備えつけはなく、雪隠も湯殿も入混みになる。

四畳に足りない六・七という妙な寸法で、いっぽうは高窓。いっぽうは牢格子。片側廊下で、中格子のわきに鍵役、改役当番の控所がある。

その一間。

この二日のうちに、いよいよもって憔悴した源右衛門とむかいあって坐っているのが、仙波阿古十郎。

かくべつ陽気にかまえるつもりはないのだろうが、顔のこしらえがなんとなくのんびりと出来ているので、こういう陰気な場所がらにはいかにも不釣りあい。

ちょうど話がとぎれたところと見え、青地は膝に手をついてうつむき、顎十郎のほうは、例によって長い顎の先をつまみながら、トホンと天井を見あげていたが、鼻の先にとまりかけた蠅を手ではらう