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かお
顔
宮本 百合子
「中央公論」1924(大正13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,099 字 · 23 页
燈の工合で陰翳(かげ)が濃くなり、遠くから眺めると、若いイエスの唇からは今にも活々した声が響いて来そうに、画中の人物が浮上って見えた。
親子三人は、黙ってじっとその方を見た。やがて、ハンスが息子に云った。
「一寸あの画の傍に立って見ろ」
フランツは、怪訝そうに父親と母とをかわるがわるに見た。
「お前の背があの画の何処まであるか見て置きたいのさ」
フランツは、歩いて行って絵のそばに立った。
「これでいい?」
「もうちっと画によって」
フランツは画中の基督と同じ高さに顔を並べた。ハンスは思わず深く唸った。ルイザは肱でひどく夫の脇を突きながら、いたたまれないように囁いた。
「御覧なさい! ああまりーあ、聖(さんた)まりーあ」
ハンスは、のそりと立ち上った。
彼は忽然として自分の目の前に現われた二つの少年イエスの顔を見て、名状出来ない気持に打たれたのであった。
その晩、夫婦は長いこと、床の中で目を醒していた。ハンスは、彼の考えになれない頭で、自分達親子の運命を思い惑った。自分のように学問も徳もない平民に、何故あれほど、救世主に似た顔つきの息子を授けられたのか。考えれば考えるほど解らなくなって、彼は、ひとりでに太い溜息を洩しては、寝返りを打った。