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ふうきんとさかなのまち

風琴と魚の町

林 芙美子

「改造」1931(昭和6)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,372 字 · 27 页

青空文庫

おばさんは毎日、石榴の木の見える縁側で、白い昆布に辻占を巻いて、帯を結ぶ内職をしていた。

ここの台所は、いつも落莫として食物らしい匂いをかいだ事がない。井戸は、囲いが浅いので、よく猫や犬が墜ちた。そのたび、おばさんは、禿の多い鏡を上から照らして、深い井戸の中を覗いた。

「尾の道の町に、何か力があっとじゃろ、大阪までも行かいでよかった」

「大阪まで行っとれば、ほんのこて今頃は苦労しよっとじゃろ」

この頃、父も母も、少し肥えたかのように、私の眼にうつった。

私は毎日いっぱい飯を食った。嬉しい日が続いた。

「腹が固うなるほど、食うちょれ、まんまさえ食うちょりゃ、心配なか」

「のう――おッ母さん! 階下のおばさんたち、飯食うちょるじゃろか?」

「どうして? 食うちょらな動けんがの」

「ほんでも、昨夜な、便所へはいっちょったら、おじさんが、おばさんに、俥も持って行かせ、俺はこのまま死んだ方がまし、云うてな、泣きよんなはった」

「ほうかや! あの俥も金貸しにばし、取られなはったとじゃろ」

「親類は、あっとじゃろか、飯食いなはるとこ、見たことなか」

「そぎゃんこツ云うもんじゃなかッ、階下のおじさんな、若い時船へ乗りよんなはって、機械で足ば折んなはったとオ、誰っちゃ見てくれんけん、おばさんが昆布巻きするきりで、食うて行きなはるとだい、可哀そう