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ふうきんとさかなのまち
風琴と魚の町
林 芙美子
「改造」1931(昭和6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,372 字 · 27 页
「市長さんが来たんじゃ」
「ホウ! たまげたさわぎだな」
私達はまた歩調をあわせて歩きだした。
浜には小さい船着場がたくさんあった。河のようにぬめぬめした海の向うには、柔かい島があった。島の上には白い花を飛ばしたような木がたくさん見えた。その木の下を牛のようなものがのろのろ歩いていた。
2 ひどく爽やかな風景である。
私は、蓮根の穴の中に辛子をうんと詰めて揚げた天麩羅を一つ買った。そうして私は、母とその島を見ながら、一つの天麩羅を分けあって食べた。
「はようもどんなはいよ、売れな、売れんでもええとじゃけに……」
母は仄かな侘しさを感じたのか、私の手を強く握りながら私を引っぱって波止場の方へ歩いて行った。
肋骨のように、胸に黄色い筋のついた憲兵の服を着た父が、風琴を鳴らしながら「オイチニイ、オイチニイ」と坂になった町の方へ上って行った。母は父の鳴らす風琴の音を聞くとうつむいてシュンと鼻をかんだ。私は呆んやり油のついた掌を嘗めていた。
「どら、鼻をこっちい、やってみい」
母は衿にかけていた手拭を小指の先きに巻いて、私の鼻の穴につっこんだ。
「ほら、こぎゃん、黒うなっとるが」