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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

そこでは、もう活動が準備されていた。夕方おそくなって、そして、又道を間違えてひどく迷って疲れて帰って来た重吉に、ひろ子は、

「健康診断しましょうよ、ね。健康診断をちゃんとしなければ絶対に駄目よ」

心痛に眉をよせて力説した。

「吉岡さんに診て貰いましょう。それからでなくちゃ、わたしたち、どう暮したらいいのか分らないみたいで……わかるでしょう?」

「そうしよう」

それにつけても思いおこすという風で重吉は、

「――木暮の奴……」

と云った。木暮は、一九四四年頃どこかの刑務所から転任して巣鴨へ来た監獄医であった。病監での日常事で意見が衝突した重吉について、精神異状者という書類を裁判所へ出した。

「わたしはね、こんどこそ、本当にあなたを生かしたいと思って診てくれる人に診せたいの、いいでしょう?」

十二年の間、重吉は彼を積極的に生かそうとする意志が一つもない環境の中で、猩紅熱から腸結核、チフスと患って、死と抵抗して来た。今度は、どうだろう、と、重吉の無言の格闘を遠まきに見まもられている裡で、死なずに生きて出て来た。吉岡に診ましょうと云われて、いきなり上着をぬいだ重吉が、ひろ子には犇々とわかった。