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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
「たしか、瀬川の御友達のかただったと思うんですけれど……わたしは御存じないんです」
きょうが目には見えない女と子供のひとつの旗日であったように、誰の目にも見えないカドリールの輪がある。そうひろ子は思った。古風なカドリールの音楽につれて、手から手へ繋がりあって、送られて、まわって、又新しい手につながれて動いてゆく、見えない仲間のカドリールがあるという陽気な気がした。
「ここは、まるでノアの箱舟ね」
ひろ子が、笑って云った。
「何でも一応あるのね、あんなに大きい髯まであったわ。気がついたでしょう?」
「ほんと」
眠って軟くまるまる純吉をゆりあげながら牧子も笑った。そして、二人は明るいとき通ったほこりの深いゴロタ石の道を駅に向った。先へゆく一団の中に懐中電燈をもっている人があって、その蒼い光の条が、ときどき前方の木立の幹や草堤の一部をパッと照らし出した。
六
重吉の左脚の筋炎は、一週間ほどして段々納まりはじめた。日当りのいい八畳に臥ている重吉の湿布をとりかえながら、
「こんどの足いたは、可哀想だったけれど、わるいばかりでもなかったわねえ」
ひろ子が、云った。