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ふうちそう

風知草

宮本 百合子

「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页

青空文庫

「ひろ子、覚えているかい? 俺が、文学報国会なんてものは脱退しろ、とあんなに云ったとき、何てがんばったか。――あなたには外の様子が分らないからって、がんばったんだぜ」

そのときのいやさが忘られないように、重吉はひろ子の口真似をして云った。

「そうなのよ。だから、わたし、この封筒もお目にかける気になったの」

「わからないことがあるもんか――ちゃんとわかっていたじゃないか。――会費を送るのはやめたかい?」

「やめたわ。それは大抵の人がやめたでしょう」

もと文芸家協会として組織されていたものが、団体ぐるみ文学報国会というものになって、会員の一人だったひろ子も自然そこにひっくるめられていた。

またしばらく黙っていたのち、重吉がいかにも笑止千万という顔つきで、

「この小説、もしもさきでことわって来なかったら、ひろ子はのせていいと思ったのかい」

「のせたい、と思ったのじゃあないのよ。のせた方がいいだろう、そう思ったのね。あの時分……」

そのことが話したくて、ひろ子は、その封筒も重吉の前に持ち出したのであった。戦争が進み、情報局がすべての文化統制を行って、文学者やその作品をすっかり軍用に統一しはじめた頃、ひろ子たち一群の作家は、不安な状況に陥った。