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かぜたちぬ

風立ちぬ

堀 辰雄

序曲、風立ちぬ「改造」1936(昭和11)年12月号、冬「文藝春秋」1937(昭和12)年1月号、春「新女苑」1937(昭和12)年4月号、死のかげの谷「新潮」1938(昭和13)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,998 字 · 108 页

青空文庫

十二月二十四日

夜、村の娘の家に招ばれて行って、寂しいクリスマスを送った。こんな冬は人けの絶えた山間の村だけれど、夏なんぞ外人達が沢山はいり込んでくるような土地柄ゆえ、普通の村人の家でもそんな真似事をして楽しむものと見える。

九時頃、私はその村から雪明りのした谷陰をひとりで帰って来た。そうして最後の枯木林に差しかかりながら、私はふとその道傍に雪をかぶって一塊りに塊っている枯藪の上に、何処からともなく、小さな光が幽かにぽつんと落ちているのに気がついた。こんなところにこんな光が、どうして射しているのだろうと訝りながら、そのどっか別荘の散らばった狭い谷じゅうを見まわして見ると、明りのついているのは、たった一軒、確かに私の小屋らしいのが、ずっとその谷の上方に認められるきりだった。……「おれはまあ、あんな谷の上に一人っきりで住んでいるのだなあ」と私は思いながら、その谷をゆっくりと登り出した。「そうしてこれまでは、おれの小屋の明りがこんな下の方の林の中にまで射し込んでいようなどとはちっとも気がつかずに。御覧……」と私は自分自身に向って言うように、「ほら、あっちにもこっちにも、殆どこの谷じゅうを掩うように、雪の上に点々と小さな光の散らばっているのは、どれもみんなおれの小屋の明りなのだからな。