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えさ
餌
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房、1953(昭和28)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,445 字 · 7 页
顔を洗いに行こうとして、何時ものように籠傍を通ると、今朝はどうしたのか、ひどく粟が乱雑になって居るのに心付いた。籠の中に散って居るばかりか、一尺も間のある床の間まで、黄色い穀粒は飛んで居る。其にも無頓着で、彼等は、清らかな朝日を浴びて、枝から枝へと遊んで居る。いずれ行儀のわるい「じゅうしまつ」が、例の通り体ごと餌壺に入って、ちっ、ちっと、首を振り振り撒きちらしたのだろう。私はそのまま忘れて仕舞った。
やがて昼近くなり、まつが食事のことで物を尋ねに来た。そのきっかけに私は机の前を立って、縁側に出た。直射する光線を嫌う私の机は、北向の小部屋の隅にある。何処となく薄ら時雨れた日、流石に自分もぬくぬくとした日向のにおいが恋しく感じられたのである。来年の花の用意に、怠りなく小さい芽を育てて居る蘭の鉢などを眺めながら、何心なく柱に倚って居ると、頻りに鳥籠が騒々しい。
障子が一枚無人の裡に開け放されて居たのを思い出し、或は猫でもかかったのではないかと心付いた。私は立って行って、上から細かい網目の中を覗いた。そして、意外にも、餌壺に一粒の粟さえないのを発見した。