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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

「私はとうとう先生の説に降参しました。実際面白い考え方ですね。住宅は寝室と食堂だけで、街路がみな廊下の延長……愉快です。」

それを聞くと、私の方が一寸面喰いました。

「へえー、そんなつまらないことが……。」

「つまらなくはありません。私はそれを友人に云いふらして歩いたんです。……東京の学生は愉快ですね。……私は東京の街路を飛び廻ってやるつもりです。……だけど、変ですね……どうも……。」

彼は何かしら胸の中がもやもやしてるらしく、それをはっきり口に出せないのがなお焦れったいらしく、眉根に皺を寄せて考えこみました。私はその顔を覗き込んで尋ねました。

「どうしてまたそんな風に、心機一転したんだい。」

「え、心機一転って……。」

それから暫くして、彼は真白な卓布に眼を据えて云いました。

「やはりあの庭のお影です。窓の外に一杯植木を並べて、私は一生懸命にその枝振をなおしたり水をやったり、木の間に頭をつきこんで、半日もぼんやりしてることがありました。すると、その窓の下に、煉瓦の塀越しに、よその家の室が見えるんです。薄暗い汚い宿でしたが、朝から晩まで、四十ぐらいのお上さんが、たった一人で縫物をしています。