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こうでん

香奠

豊島 与志雄

「時流」1925(大正14)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,989 字 · 46 页

青空文庫

」

なるほど彼は髪を長く伸して、オールバックにしていました。まだ頂上は少し伸びきらないとみえて、毛並が揃っていませんでした。それからセルの着物に一重羽織なんか着込んでいます。どう見ても以前の彼とは全く様子が変っていて、態度から言葉付まで東京の学生らしくなりすましています。

「見違えるほど変ったじゃないか。」

「だから私は、先生にひやかされるだろうと思って、ひやひやしていましたが、やっぱり……。」

「ひやかすんじゃない。感心してるんだよ。」

そんな風に話を初めて、私達は芝居が初まってるのも知らん顔で、酒をのみました。彼は私の家にいる時からそうでしたが、酒はいくら飲んでも本当には酔わないから、結局飲んでも飲まなくても同じだと云っていました。その不経済な杯を、彼はしきりに空けながら、やがてじっと私の顔を見つめてきました。

「先生、私はやはり賭に負ました。」

そして一寸彼の眉間に陰欝な影が浮びましたが、次の瞬間にはもう晴れやかな顔に戻っていました。

「賭って……何の賭だい。」

「あの……窓の外の庭のことです。」

私はもう忘れていましたが、窓の外に鉢植を並べて庭を拵えるという、あのことを彼は云ってるのです。