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うま
馬
佐左木 俊郎
「新潮」1932(昭和7)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,299 字 · 15 页
「ほんでも、金で持ってるど、眼に見えねえごとに遣ってしまうんじゃねえかね。」
女房のスゲノは首を傾げながら言うのだった。炎天の下に水を溜めようとしても、水は、いつの間にか蒸発してしまう。伝平もそれは知っていた。
「思い切って、耕平の野郎さ、立派な墓石でも建ててやるか?」
伝平は眼を輝かしながら言った。
「それさね。ふんでも、立派な墓石など建てたって、毎日お墓さ行って見れるもんでもあるめえしね。何か家さ置けるものを買ったら、どんなものかね。」
「それじゃ仏壇でも買うか?」
「それよりも、思い切って、馬のいいのを買ったらどうかね。耕平も、馬を買うべって稼ぎに行って……」
母親はそう言っているうちに、涙がじめじめと虫のように匐い出して来て、言葉が継げなくなった。
「よし! 馬を買うべ! 馬のいいのを買うべ!」
伝平は手を叩くようにして言った。
伝平はそうして、七十円ばかりで、橡栗毛の馬を一匹買ったのだった。残りの金では、馬小屋にも手入れをした。そして、伝平は、一日のうち、馬小屋にいる時間の方が、遙かに長かった。
「おおら! おおら! おおら!」
伝平はそう言って、馬の肩あたりを撫でてやりながら、いつまでも凝っと馬の眼を視詰めているのだった。