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えきふにっき
駅夫日記
白柳 秀湖
「新小説」1907(明治40)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,989 字 · 69 页
私たちの休んでいる待合の中央の入口から洋服の紳士が、靴音高く入って来た。えならぬ物の馨がして、花やかな裾が灯影にゆらいだと思うとその背後から高谷千代子が現われた。
言うまでもなく男は蘆鉦次郎だ。
見送りの者は室の外に立っている、男は角燈の光に私たちの顔を透かして突き立ったが、やがて思い出したと見えて、身軽に振り向くとフイとプラットホームに出てしまった。
はたして彼は私たちを覚えていた。
取りのこされた千代子は、ややうろたえたがちょいと瞳を私にうつすと、そのまま蘆の後を追ってこれもプラットホームに出る。佳人の素振りはかかる時にも、さすがに巧みなものであった。
「見たか?」と小林はニッコリ笑って私の顔をのぞいたが「睨んでやったぞ※」と言う。私はさすがに見苦しい敗卒であった。よもや蘆がこの列車に乗ろうとは思わなかった、この夜陰に何という新婚の旅行だろう、私はあらゆる妄念の執着を断ち切って、新しい将来のために、花々しい戦闘の途に上る、その初陣の門出にまでも、怪しい運命の糸につき纏われて、恨み散り行く花の精の抜け出したような、あの女の姿を、今ここで見るというのは何たることであろう。