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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

君はいつ帰るの?」

散歩の道連れの大宅幸吉がうしろから話しかけた。幸吉はこの山村では第一の物持と云われる大宅村長の息子さんであった。

「明日か明後日か、何れにしてももう長くはいられない。待ってて呉れる人はないけれど、仕事の都合もあるからね」

殿村は女竹のステッキで、朝露にしめった雑草を無意味に薙ぎ払いながら答えた。

細道は鉄道線路の土手に沿って、段畑の縁や薄暗い森を縫って、遙か村はずれのトンネルの番小屋まで続いていた。

五哩程向うの繁華な高原都市N市を出た汽車が、山地にさしかかって、第一番にぶッつかるトンネルだ。そこから山は段々深くなり、幾つも幾つもトンネルの口が待っているのだ。

殿村と大宅は、いつものトンネルの入口まで行って、番小屋の仁兵衛爺さんと話をしたり、暗いトンネルの洞穴の中へ五六間踏み込んで、ウォーと怒鳴って見たりして、又ブラブラと村へ引返すのが常であった。

番小屋の仁兵衛爺さんは、二十何年同じ勤めを続けていて、色々恐ろしい鉄道事故を見たり聞いたりしていた。機関車の大車輪に轢死人の血みどろの肉片がねばりついて、洗っても洗っても放れなかった話、ひき殺されてバラバラになった五体が、手は手、足は足で、苦しそうにヒョイヒョイ躍り狂っていた話、長いトンネルの中で、轢死人の怨霊に出逢った話、その外数え切れない