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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
顔のない死体
「オイ、あいつ何だか銜えているぜ。血まみれの白いものだ」
「ウン、銜えている。何だろう」
立止って、ジッと見ていると、犬が近づくに従って、銜えているものの形が、少しずつハッキリして来た。
大根の様なものだ。併し、大根にしては色が変だ。鉛の様に青白い、何とも云えぬ色合だ。オヤッ、先が幾つかに分れている。五本指の大根なんてあるものか。手だ。人間の生腕だ。断末魔に空を掴んだ、鉛色の人間の片腕だ。肘の関節から喰いちぎられて、その端には、赤い綿の様な塊りがくッついている。
「アッ、畜生め」
大宅がわめきながら、石塊を拾って、いきなり投げつけた。
「ギャン、ギャン」という悲鳴を上げて、人喰い犬は、矢の様に逃げ去った。小石が命中したのだ。
顔のない死体
「やっぱりそうだ。人間の腕だ。指の様子では、まだ若い女の様だね」
妖犬の捨てて行った一物に近より、怖々覗き込みながら大宅が判断した。
「どっかの娘さんが喰い殺されたのじゃあるまいか。それとも餓えた山犬が墓をあばいたのか」
「イヤ、この村には若い女の新仏はない筈だ。といって、山犬共が生きている人間を喰い殺すなんて、そんな馬鹿なことは考えられないし、オイ昌ちゃん、やっぱり君の云った通り、こいつは少し変な具合だね」