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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

殿村は友達の為に、判事の気を惹いて見た。

「イヤ、疑っている訳じゃない。そういうことを極めてかかるのは、君がいつも小説に書いている通り、非常に危険なんだ。疑うといえば凡ての人を疑っている。君だって疑っているかも知れない」

判事は冗談の様に云って、殿村の肩を叩いた。

「君、今手がすいているのだったら、見せたいものがあるんだ。トンネルの側の番小屋まで一緒に散歩しないか」

殿村は相手の冗談を黙殺して、さい前から云おうとしていたことを云った。

「仁兵衛爺さんの番小屋かい。一体あすこに何があるの」

「藁人形があるんだ」

「エ、何だって」

国枝氏はびっくりして、殿村の生真面目な顔を眺めた。

「現場を検べている時、君にそのことを云ったのだけれど、耳にも入れて呉れなかった。藁人形なんぞあとでいいと云った」

「そうだったかい。僕はちっとも記憶しないが、で、その藁人形がどうかしたのかい」

「マア、何でもいいから、一度見て置き給え。ひょっとしたら、今度の事件を解決する鍵になるかも知れない」

国枝氏は突飛千万なこの申出でを、真面目に受取る気にはならなかったけれど、殿村の熱心な勧めを退ける理由もなかった。