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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
従って、大宅氏夫妻は、泣かんばかりに幸吉を責め口説く。恋に狂った若者が、こんな羽目に陥った時、その許嫁の女を憎み、呪い、はては殺意をさえ抱くに至るのは、至極あり相なことではないか。というのが、予審判事や警察の人々の意見であった。
動機あり、証拠品あり、アリバイなし。最早幸吉の有罪は何人もくつがえすことが出来ない様に見えた。
だが、ここに、幸吉の両親大宅氏夫妻の外に、彼の有罪を信じない一人の人物があった。それは、幸吉の親友で、S村に帰省中たまたまこの事件にぶッつかった探偵小説家殿村昌一だ。
彼は幼年時代からの幸吉の友達で、その気心を知悉していたから、如何に恋に狂ったとはいえ、彼が罪もない許嫁の鶴子を殺すなどとは、どう考えても信じられないのであった。
彼は今度の事件について、一つの不可思議な考えを抱いていた。それは殺人の行われた四日前に、殆ど同じ場所に、等身大の藁人形が、しかも短刀で胸を刺されて倒れていたことを出発点とする、誠に突飛千万な幻想であった。そんなことを、国枝判事などに話せば、小説家の空想として、忽ち一笑に附し去られるは知れ切ていたから、彼はそれについて、何事も口にしなかったけれど、親友の幸吉が無実を主張しながら拘引された上は、親友を助ける意味で、彼は彼の幻想に基いて、一つこの事件を探偵して見よう