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おに
鬼
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页
「あなたのところの二階に、絹川という娘さんがいらっしゃるでしょう。その人にお目にかかり度いのです。僕は殿村という者です」
殿村は老婆の耳に口を寄せて大声にどなった。
すると、その声が二階に通じたのか、玄関から見えている階段の上に、白い顔が覗いて、
「どうか、こちらへお上り下さいませ」
と答えた。その娘が絹川雪子に違いない。
真黒にすすけた段梯子を上ると、二階は六畳と四畳半の二間切りで、その六畳の方が雪子の居間と見え、女らしく綺麗に飾ってある。
「突然お邪魔します。僕はS村の大宅幸吉君の友達で殿村というものです」
挨拶をすると、雪子は、叮嚀におじぎをして、
「わたし絹川雪でございます」
と云った切り、恥かしそうにうつむいて、黙っている。
見ると、雪子の様子が少し意外である。殿村は、幸吉があれ程に思っていた娘さんだから、定めし非常に美しい人であろうと想像して来たのに、今目の前に、ツクネンと坐っている雪子は、どうも美しいとは云えないばかりでなく、まるで淫売婦の様な感じさえするのだ。
髪は洋髪にしているが、それが実に下手な結い方で、額に波打たせた髪の毛が、眉を隠さんばかりに垂れ下り、顔には白粉や紅をコテコテと塗って、その上虫歯でも痛いのか、右の頬に大きな膏薬を張りつけているという始末だ。